戦略の古典

良い戦略、悪い戦略:カーネルで戦略を書き、悪い戦略を見分ける

ルメルトの「カーネル」は、良い戦略に共通する 3 つの要素です。何が行く手をふさいでいるのかを見きわめる診断、攻め方を 1 つに決める基本方針、互いに支え合う少数の打ち手からなる行動です。この 3 つを 1 枚に書き、できた戦略や今の計画を、悪い戦略の 4 つの特徴(空疎である、重大な問題に取り組まない、目標を戦略と取り違えている、間違った戦略目標を掲げている)で点検します。

要点

  • 診断:何が起きていて、何が難しいのか。
  • 基本方針:その難所への取り組み方と、それによってやらないこと。
  • 一貫した行動:互いを支え合う、少数の具体的な打ち手。
  • 点検:空疎な言葉、重大な問題に取り組まない、目標だけの計画、順番のない一覧。

どんなときに使うか、使わないか

計画書に目標と施策が並んでいるのに、何の問題を解くのか誰も言えない。そんなときに使います。取締役会の前に戦略資料を見直すとき、会社や製品やチームの戦略を一から書くときにも向いています。OKR を決める前の一手としても有効です。目標が戦略の代わりになるのを防ぎ、戦略から目標を導けます。

問題がすでに明らかで、残る問いが「どの市場で、どう競合に勝つか」なら、選択のカスケードのほうが合います。変化の速い市場で、そもそも計画をどう立てるかから決めたいなら、環境に合う戦略スタイルを先に読んでください。

カーネルの 3 要素

診断。戦略は、困難への答えです。診断は、その困難に名前をつけ、なぜ難しいかを書きます。枝葉は落とします。読み終えた人が、問題のどこを押せばよいかわかるように。「売上が落ちた」は症状です。「新規の客が、習慣になる前にやめていく」が診断です。

基本方針。診断で見つけた障害に、全体としてどう取り組むか。目標ではなく、やり方です。力を向ける先を決め、ほかの道をふさぎますが、細かい手順までは書きません。何もふさがない方針は、方針の役目を果たしていません。

一貫した行動。人とお金の裏づけがある具体的な打ち手で、1 つが他を効かせるように組まれたものです。ルメルトは Nvidia の初期を例に挙げています。3D グラフィックスの技術が速く進むという読みから、業界の標準よりずっと速いペースで新しいチップを出すという方針を立て、開発チームを重ねて走らせる、シミュレーション設備に大きく投資する、といった行動でその速さを支えました。

悪い戦略の 4 つの特徴

特徴どう見えるか確かめる問い
空疎である立派に聞こえるが、読み手が知らないことを何も言っていないこの文は、どの会社にも当てはまらないか
重大な問題に取り組まない何が行く手をふさいでいるかが書かれておらず、うまくいくかどうか誰にも判断できないこれは何の問題を解くのか
目標を戦略と取り違えている数字や願望はあるが、どう達成するかがない具体的に、どうやってそこへ行くのか
間違った戦略目標を掲げている順番のない長い願いごとの一覧、または達成しても答えに近づかない目標いちばん大事な 1 つはどれか。それは手の届く目標か

4 つ目への手当ては、手の届く近い目標を 1 つ置くことです。いまある力で達成でき、達成すれば障害を一歩越えられるもの。大きな志は志のまま残し、目標は次に本当に踏める一歩にします。

例で見る

架空の会社を使った説明です。大阪のミールキット会社。会員は 2,400 人、社員は 18 人。昨年の戦略は「関西でいちばん顧客中心の食のプラットフォームになる」で、目標は 6 つ。会員 30% 増、法人向けランチ、ヴィーガンのボックス、神戸への進出、アプリ、NPS の改善です。結果、会員は 4% しか増えませんでした。データでは、新規会員の 55% が 8 週以内に解約し、8 週を越えた人は平均約 14 か月続きます。解約アンケートでは「30 分でできると書いてあるのに、もっとかかる」という声が多数でした。

  • 診断:伸びないのは、習慣になる前に新規会員がやめるから。原因は調理時間。問題は最初の 8 週で、集客ではない。
  • 基本方針:最初の 8 週を確実に楽にする。今年は神戸もランチもアプリもやらない。
  • 一貫した行動:最初の献立を家庭で 30 分以内と確かめたレシピに組み直す。時間のかかる食材を下ごしらえして届ける。新規会員全員に 2 週目と 5 週目に連絡する。解約を週と理由ごとに毎週月曜に報告する。
  • 近い目標:来四半期の新規会員の 8 週以内解約を、チームが届くと考える水準まで下げる。
  • 旧計画の点検:4 つすべて不合格。標語は空疎で、解約の山は書かれず、30% には「どうやって」がなく、順位のない 6 つの目標が 18 人を 6 方向へ引っぱっていた。

カーネルの書き方

  1. 事実と今の計画を集める。状況を数字と出どころつきで数行に書き、今の目標は書かれたとおりに写します。
  2. 診断を書く。状況を説明する 1 つか 2 つの点と、それが難しい理由を書きます。診断が 2 つに割れたら両方書き、どの事実で決まるかを添えます。
  3. 基本方針を書く。取り組み方を 1〜2 文で書き、それによってやらないことを 1 行添えます。
  4. 一貫した行動を 3〜5 つ選ぶ。それぞれに担当と資源をつけ、互いをどう支えるかを書きます。つながらないものは外します。
  5. 近い目標を 1 つ置く。いまの資源で届くもので、担当と期日をつけます。
  6. 悪い戦略の点検をする。4 つの特徴それぞれに合格か不合格かをつけ、引っかかった一文を引いて書き直します。
  7. 決めることで締める。決裁者が承認すること、方針によってやめること、まだ確かめる事実を並べます。

戦略カーネルのスキルを使えば、この手順でカーネルと点検結果を 1 枚にまとめられます。

よくある間違い

  • 目標から書き始める。まず障害。目標はその後です。
  • 診断が全部入りの一覧になる。問題をいくつも並べただけでは判断になりません。他を説明する 1 つを選びます。
  • 何もふさがない方針。今の施策が全部そのまま残るなら、方針が広すぎます。
  • 施策を全部残す。一貫させるには、別の方向へ引く良いアイデアも手放します。
  • ビジョンの言葉で書く。どの会社にも当てはまる一文は削ります。
  • 数字を推測で埋める。手元にない数字は空欄のまま印をつけ、誰がいつ確かめるかを書きます。推測の数字で書いた診断は、議論を間違った方向へ運びます。

出典について

UCLA アンダーソン経営大学院のリチャード・P・ルメルトが、2011 年 6 月の McKinsey Quarterly の論文「The perils of bad strategy」で、悪い戦略の特徴と良い戦略のカーネルを示しました。同じ年の 7 月に、書籍 Good Strategy Bad Strategy が Crown から出ています。日本語版は『良い戦略、悪い戦略』(村井章子訳、日本経済新聞出版社、2012 年)です。このページは私たちが自分の言葉で書いた独立した要約で、著者や出版社の承認を受けたものではありません。

よくある質問

良い戦略のカーネルとは?

ルメルトのいう、良い戦略に共通する 3 つの要素です。何が行く手をふさいでいるのかを見きわめる診断、攻め方を 1 つに決める基本方針、互いに支え合う少数の打ち手からなる行動の 3 つです。

悪い戦略の 4 つの特徴とは?

日本語版の呼び方では、空疎である、重大な問題に取り組まない、目標を戦略と取り違えている、間違った戦略目標を掲げている、の 4 つです。

「売上 20% 成長」は戦略?

戦略ではありません。行きたい場所を言っているだけで、行く手をふさぐものをどう越えるかを言っていないからです。ルメルトは、目標を戦略と取り違えることを悪い戦略の特徴の 1 つに挙げています。

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出典

  1. Richard Rumelt「The perils of bad strategy」McKinsey Quarterly 2011 年 6 月 — 悪い戦略の 4 つの特徴、カーネルの 3 要素、Nvidia の例 (閲覧 2026-11-04)
  2. 「The perils of bad strategy」のアーカイブ(Internet Archive) — 読んだ全文。2011 年 6 月 1 日付、Nvidia の例を含む (閲覧 2026-11-04)
  3. Penguin Random House:Good Strategy Bad Strategy(2011 年) — 原書、出版社、刊行日 (閲覧 2026-11-04)
  4. 紀伊國屋書店:良い戦略、悪い戦略 — 日本語版、訳者、出版社、刊行年 (閲覧 2026-11-04)
  5. 日経BOOKプラス:良い戦略、悪い戦略 — 日本語版での悪い戦略の 4 つの特徴の呼び方 (閲覧 2026-11-04)