戦略の古典
戦略にこそ「戦略」が必要だ:環境に合う戦略スタイルの選び方
『戦略にこそ「戦略」が必要だ』の主張は、戦略の立て方そのものを環境に合わせて選べ、ということです。安定した市場なら長期計画が効き、四半期ごとに景色が変わる市場では同じ計画がすぐ古くなります。市場を「予測できるか」「自社が変えられるか」「どれだけ過酷か」の 3 つで見立て、クラシカル、アダプティブ、ビジョナリー、シェーピング、リニューアルの 5 つから選び、計画・予算・指標の回し方をそのスタイルに合わせて変えます。
要点
- 3 つの軸:予測可能性、変えられる度合い(malleability)、過酷さ。
- 5 つのスタイル:クラシカル(Be Big)、アダプティブ(Be Fast)、ビジョナリー(Be First)、シェーピング(Be the Orchestrator)、リニューアル(Be Viable)。
- 会社単位ではなく事業単位で選ぶ。事業ごとに違ってよい。
- 出すもの:根拠つきの環境診断、事業ごとのスタイル、計画プロセスの変更点。
どんなときに使うか、使わないか
年初の計画が夏には古くなっている。経営会議で「計画を立てるべきだ」「いや試して学ぶべきだ」と議論が割れる。成熟した事業と立ち上げたばかりの事業を、同じ予算サイクルで回している。こうした場面で使います。景気が悪化したときにも役に立ちます。まず問うべきは「この事業は今のままで生き残れるか」だからです。
これは戦略の中身を書く道具ではありません。どの立て方が合うかと、計画をどう回すかを決める道具です。スタイルが決まったら、中身は別に書きます。核心の課題から組むなら戦略のカーネル、どこで戦いどう勝つかを決めるなら選択のカスケードが向いています。どの枠組みから始めるか迷うなら戦略フレームワークの選び方から読んでください。
環境を見立てる 3 つの問い
- 予測可能性:需要や競合や技術を、どこまで先まで読めるか。過去の予測がどれだけ当たったか、市場の順位がどれだけ動かなかったかで確かめます。
- 変えられる度合い:自社だけで、または仲間と組んで、市場の構造を変えられるか。規格やルールが固まっていない若い市場は変えやすく、寡占が進んだ成熟市場は変えにくい傾向があります。
- 過酷さ:資源がどれだけ乏しく、今の道のままで事業が成り立つか。利益率の低下、残り少ない資金、主力市場の縮小があれば過酷です。
はじめの 2 つの軸を掛け合わせると 4 つのスタイルになります。過酷さを加えると 5 つ目が生まれます。BCG の 2012 年 1 月の記事「Why Strategy Needs a Strategy」では survival、書籍と BCG の「strategy palette」では renewal と呼ばれています。
5 つの戦略スタイル
| スタイル | 環境 | やること |
|---|---|---|
| クラシカル:大きくなる | 予測できる、変えにくい | 市場を分析し、地位と規模のための計画を立て、規律をもって実行する |
| アダプティブ:速くなる | 予測できない、変えにくい | 多くのやり方を試し、早い兆しで当たりを選び、広げる。これを競合より速く繰り返す |
| ビジョナリー:最初になる | ある程度予測でき、自社が変えられる | 人より先に行き着く姿を描き、最初に形にする。目標は動かさず、手段は柔軟に変える |
| シェーピング:まとめ役になる | 予測できない、自社が変えられる | 仲間を共通の構想に巻き込み、連携の基盤をつくり、エコシステムを育てる |
| リニューアル:生き残る | 過酷。資源が乏しく、今の道では成り立たない | 早く反応し、切り詰めて事業を絞り、生き延びてから、成長のためにほかの 4 つへ移る |
「大きくなる」などの言い回しは、原書の Be Big、Be Fast、Be First、Be the Orchestrator、Be Viable を私たちが訳したものです。スタイルと標語の対応は、BCG の strategy palette のページに従っています。
スタイルが変われば計画の回し方も変わります。クラシカルは長い計画期間と当たる予測が強みです。アダプティブは予測の代わりに実験の束と短いサイクルを持ちます。シェーピングは自社の計画より、仲間と基盤づくりに力を使います。リニューアルはもともと一時的なもので、時間を稼いだらほかのスタイルに引き継ぎます。
大きな会社が 1 つの環境だけに向き合うことはまれです。成熟事業はクラシカル、新規事業はアダプティブ、ということが普通に起こります。複数のアプローチを同時に、または順に使い分ける力を、BCG は両利き(ambidexterity)と呼んでいます。
例で見る
架空の会社を使った説明です。社員 60 人のソフトウェア会社に 2 つの事業があります。事業 A はクリニック向けの給与計算ソフトで、11 年目、顧客は約 900 件、売上予測は 4 年続けて誤差 5% 以内、競合は自社より大きい 2 社です。事業 B は新しい AI 予約アシスタントで、8 か月目、有料のクリニックは 40 件、予測は毎四半期 50% 以上外れ、今年だけで競合が 6 社以上現れ、診療記録との連携にはまだ標準がありません。手元資金は 22 か月分。どちらの事業も 1 月に 1 回だけ計画を立て、予算はチームごとに固定です。
- 過酷さ:会社として資金が 22 か月あるので、いまはリニューアルではない。
- 事業 A:予測でき、変えにくい。クラシカル。年次計画は続け、クリニック市場でのシェアと顧客 1 件あたりのコストを計画の軸にする。
- 事業 B:予測できない。市場は変えやすいが、40 件では影響力が小さい。いまはアダプティブ。診療記録の事業者が共通の標準に乗ってくれるなら、シェーピングが選択肢になる。
- 計画の変更:事業 B を 1 月の計画から外す。6 週間ごとに見直し、予算は実験ごとに段階的に出し、各段階の中では事業 B の責任者が決める。
進め方
- 環境が違う事業を 1 行ずつ書き出す。同じチームが担当していても、市場が違えば分けます。
- まず過酷さを確かめる。今の道で生き残れない事業は、当面リニューアルです。
- 予測可能性を根拠つきで評価する。予測の当たり具合、順位の安定、顧客や技術の変わる速さを見ます。
- 変えられる度合いを根拠つきで評価する。規格やルールやエコシステムが固まっていないか、自社にそれを動かす規模や仲間があるかを見ます。
- 事業ごとにスタイルを当てはめる。評価が境目なら次点も書きます。
- 今の計画の立て方と比べる。食い違いを挙げ、それで何を失っているかを書きます。
- 計画の回し方を変える。計画期間とサイクル、予測の役割、予算の出し方、経営が見る指標、決める人を、事業ごとに決めます。
戦略スタイルのスキルを使えば、手元の事実でこの手順を進め、足りない情報には印をつけてくれます。
よくある間違い
- 好みでスタイルを選ぶ。ビジョナリーは聞こえがいい。決めるのは根拠で、チームの好みではありません。
- 会社全体を 1 回で評価する。市場の違う事業は行を分けます。
- 騒がしい市場を予測できない市場と取り違える。過去の予測がどれだけ外れたかを確かめます。
- 自社の影響力を高く見積もる。市場が変わりうることと、自社が変えられることは別です。
- スタイルを決めて何も変えない。予算もサイクルも指標も同じなら、スタイルはただのラベルです。
出典について
この考え方は、ボストン コンサルティング グループのマーティン・リーブス、Claire Love、Philipp Tillmanns が、2012 年 9 月の Harvard Business Review の論文「Your Strategy Needs a Strategy」で示しました。リーブスと Knut Haanæs、Janmejaya Sinha が同じ題名の書籍にまとめ、2015 年に Harvard Business Review Press から出ています。日本語版は『戦略にこそ「戦略」が必要だ』(日本経済新聞出版社、2016 年)です。このページは私たちが自分の言葉で書いた独立した要約で、著者や出版社の承認を受けたものではありません。
よくある質問
『戦略にこそ「戦略」が必要だ』の 5 つの戦略スタイルとは?
クラシカル(大きくなる)、アダプティブ(速くなる)、ビジョナリー(最初になる)、シェーピング(まとめ役になる)、リニューアル(生き残る)の 5 つです。環境を、予測できるか、自社が変えられるか、どれだけ過酷かで見立てて選びます。
1 つの会社で複数のスタイルを使ってよい?
使ってかまいません。市場が違う事業には、同時に、または順に、別のスタイルが要ります。BCG はこれを両利き(ambidexterity)と呼びます。
リニューアルは長く続ける戦略?
いいえ。過酷な環境で、早く手を打ち、コストを削って事業を絞り、生き延びるためのものです。持ち直したら、成長のためにほかの 4 つのどれかへ移ります。
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AI スキルとして使う
この手順を AI に任せるためのスキルが「環境に合わせた戦略スタイル」です。材料を渡すと、AI が同じ手順で進めて、決まった形にまとめます。
Claude、ChatGPT、コーディングエージェントで使えます。ポッドに入れると、チームの全員が同じ版を使います。
出典
- Harvard Business Review Press:Your Strategy Needs a Strategy(2015 年) — 著者、刊行年、環境についての 3 つの問い、Be Big / Be Fast / Be First / Be the Orchestrator / Be Viable (閲覧 2026-11-04)
- Reeves, Love, Tillmanns「Your Strategy Needs a Strategy」Harvard Business Review 2012 年 9 月号 — 著者と時期のみ (閲覧 2026-11-04)
- BCG:Strategy Palette — スタイルと標語の対応(Classic Strategy: Be Big から Renewal Strategy: Be Viable まで) (閲覧 2026-11-04)
- Reeves, Deimler, Love「Why Strategy Needs a Strategy」BCG、2012 年 1 月 19 日 — 予測可能性・変えられる度合い・過酷さ、各スタイルの中身 (閲覧 2026-11-04)
- BCG:The Strategy Palette — 5 つのアプローチ、両利き(ambidexterity) (閲覧 2026-11-04)
- BCG:Renewal Strategy — 早く反応し、切り詰め、ほかのスタイルへ移る (閲覧 2026-11-04)
- 早稲田大学:マーティン・リーブス氏が語る「Your Strategy Needs A Strategy」 — 日本語版『戦略にこそ「戦略」が必要だ』(日本経済新聞出版社、2016 年 2 月) (閲覧 2026-11-04)