経営者の考え方

イーロン・マスクの第一原理思考と5ステップのアルゴリズム

イーロン・マスク本人および関係会社とは無関係で、推薦も受けていません。

イーロン・マスクが語ってきた方法のうち、ロケットや自動車の外でもよく引き合いに出されるものが 2 つあります。1 つは第一原理思考です。製品が何でできていて、その材料がいくらかといった基本的な事実まで分解し、他社のやり方をなぞらずにそこから考えを組み立てます。もう 1 つは、工程を見直す5 つのステップです。要件を疑い、削り、単純にし、速くして、自動化は最後にします。このページでは、TED と Wired のインタビュー、2021 年の Starbase のツアーでのインタビューをもとに、2 つを身近な仕事に当てはめる方法をまとめます。

要点

  • 第一原理:類推ではなく、基本的な事実まで分解してから考えを積み上げます。
  • 原価の下限:材料を値段に直して足すと、いまの価格との差が見え、どこを調べるべきかがわかります。
  • 5 ステップは順番どおりに:要件を疑う、削る、単純化する、速くする、自動化する。
  • 要件には人の名前を:部署ではなく、責任を持つ人をはっきりさせます。
  • 自動化は最後:先にやると、なくすべき工程まで自動化してしまいます。

類推ではなく、第一原理で考える

2013 年の TED のインタビューで、マスクは考えるための枠組みとして物理学、つまり第一原理で考えることを挙げました。物事をいちばん基本的な事実まで煮詰め、そこから考えを積み上げるやり方です。その反対が類推で、他人がしていることを少し変えてまねることだと説明しています。日々の生活は類推で回さないと頭が持たないが、新しいことをするときは物理学のやり方が要る、という話です。同じ答えの中で、否定的なフィードバックに注意を払い、とくに友人に自分から求めることも勧めています。

原材料から、原価の下限を出す

2012 年の Wired のインタビュー(Elon Musk's Mission to Mars)では、この考え方をロケットの価格に当てはめた経緯を話しています。ロケットは何でできているか(航空宇宙用のアルミ合金、少しのチタン、銅、炭素繊維)、その材料は商品市場でいくらか、と問いました。材料費はロケットの一般的な価格の 2% ほどにすぎず、テスラの車ならおよそ 20〜25% だと比べ、もっと安いロケットが作れるはずだと考えたといいます。

その差の理由として、リスクを避けて何十年も前の部品を使い続ける傾向と、下請けが何層にも重なり、層ごとに利益が上乗せされる構造を挙げています。

同じ計算は、もっと小さなものにも使えます。たとえば、印刷入りのコーヒー豆の袋を 1 枚 0.92 で仕入れている焙煎所なら、袋の重さを量り、フィルムと紙の素材とバルブを値段に直すと、材料が価格のごく一部だとわかります。それで価格が不当だとは言えません。製袋、印刷、版代、利益は実際にかかる費用です。わかるのは、どの層を問い合わせればよいかです。たとえば製袋メーカーに直接見積もりを頼む、といった次の一手になります。

5 ステップのアルゴリズム

2021 年、SpaceX の Starbase をティム・ドッド(Everyday Astronaut)と回ったインタビューで、マスクは 5 つのステップを説明し、順番が大事だと繰り返しています。以下は、インタビューの字幕の書き起こしと、それを編集した Entrepreneur の記事にもとづく要約です。

  1. 要件を、もっとまともにする:要件は、誰が出したものでも間違いなくおかしい。とくに頭のいい人が出した要件は疑いにくいので危ない、と述べています。要件には部署ではなく、責任を持つ人の名前がついていなければなりません。
  2. 部品や工程を削る:人は、念のためにと部品や工程を足したがる。削ったものを戻すことが少なくとも 10% の割合で起きていないなら、削り方が足りない、という目安を挙げています。
  3. 単純化・最適化する:3 番目に置くのは、なくすべきものを最適化してしまうのが、優秀なエンジニアにありがちな誤りだからです。
  4. サイクルタイムを縮める:速くするのは、最初の 3 つを済ませてからです。
  5. 自動化する:最後です。マスク自身、テスラのモデル 3 で、削る前に自動化して手順を逆にたどったと話しています。

ウォルター・アイザックソンの伝記を取り上げた 2023 年の Fortune の記事も、同じ 5 つを同じ順番で挙げ、これがアルゴリズム(the algorithm)と呼ばれるようになったと書いています。テスラのフリーモント工場を、はじめからすべての作業を自動化する形で設計し、のちに方針を改めたことも紹介しています。

事務の仕事でも、順番を守ると直す場所が変わります。申込フォームの内容を CRM に写すツールを買おうとしている会社なら、先にフォームの項目ごとに誰が使うのかを確かめ、写す作業そのものをなくし、それでも残った作業だけを自動化の候補にします。

自分の仕事に当てはめる手順

  1. 「この業界ではこの値段」と受け入れているコストを 1 つ選び、いつもどう説明されているかを書きます。
  2. 市場価格のある材料や作業まで分解し、出典つきで値段をつけて、下限を足し上げます。
  3. 下限といまの価格を比べ、差の層ごとに何の費用かを書き、わかっていることと推測とを分けます。
  4. 遅い業務なら、要件と工程を 1 行ずつ書き出し、それぞれに責任を持つ人の名前を添えます。
  5. 誰も理由を説明できないものを削り、残りを単純にし、それから速くします。
  6. 残った工程だけを自動化し、あとで何を戻すことになったかを確かめます。

出典にあること、ないこと

第一原理の説明と否定的なフィードバックの話は TED の書き起こしから、ロケットの材料の例は Wired のインタビューから取っています。5 ステップは、2021 年のインタビューの動画と Entrepreneur の編集版の書き起こし、そしてアイザックソンの伝記についての Fortune の記事によるもので、伝記そのものは読んでいません。日本語の文はすべて私たちの要約と訳で、本人の言葉の直訳ではありません。コーヒー豆の袋と申込フォームの例、事務の仕事への当てはめは、私たちの工夫です。

よくある質問

イーロン・マスクの「第一原理思考」とは何ですか?

2013 年の TED のインタビューでマスクは、物事をいちばん基本的な事実まで分解し、そこから考えを積み上げることだと説明しています。反対にあるのが類推で、他人のやり方を少し変えてまねることだと述べています。

マスクの 5 ステップ(アルゴリズム)の中身は?

要件を疑う、部品や工程を削る、単純化・最適化する、サイクルタイムを縮める、自動化する、の 5 つで、この順番が大事だとしています。2021 年の Starbase のツアーで説明し、ウォルター・アイザックソンの伝記ではアルゴリズム(the algorithm)と呼ばれています。

なぜ自動化が最後なのですか?

マスクは、優秀なエンジニアにありがちな誤りは、本来なくすべきものを最適化することだと述べています。自身も生産ラインで、削る前に自動化してしまい、手順を逆にたどったことがあると話しています。

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出典

  1. TED:クリス・アンダーソンによるインタビュー(2013 年、英語の書き起こし) — 類推ではなく第一原理で考える。否定的なフィードバックを求める (閲覧 2026-11-04)
  2. Wired:Elon Musk's Mission to Mars(2012 年、英語) — ロケットの材料を商品市場の値段で見積もる。材料費は一般的な価格の 2% ほど (閲覧 2026-11-04)
  3. Starbase Tour with Elon Musk Part 1(動画) — 5 つのステップとその順番、要件ごとに責任者の名前、10% の付け戻しの目安 (閲覧 2026-11-04)
  4. Entrepreneur(2021 年、英語) — 同じインタビューの 5 ステップを編集して書き起こしたもの (閲覧 2026-11-04)
  5. Fortune(2023 年、英語):ウォルター・アイザックソンの伝記について — 5 ステップがアルゴリズム(the algorithm)と呼ばれたこと。フリーモント工場の自動化の見直し (閲覧 2026-11-04)