戦略の古典
ワードリーマップの描き方:例つきで
ワードリーマップは、事業を形づくる要素を、利用者からどれだけ見えるかと、どこまで進化しているかの 2 つの軸で並べた地図です。利用者のニーズを起点に、それを満たす要素を書き出して地図に置き、どこを自社で作り、どこを買うか借りるか、どんな変化に備えるかを決めます。
要点
- 起点:利用者と、そのニーズ。地図のいちばん上に置く。
- 縦軸:バリューチェーン。上が利用者から見える要素、下が見えない土台。
- 横軸:進化。誕生、特注、製品(+レンタル)、コモディティ(+ユーティリティ)。
- 動き:要素は、需要と供給の競争で時間とともに右へ進む。
- 結論:段階に合ったやり方と、担当つきのいくつかの打ち手。
どんなときに使うか、使わないか
商品や業務の全体を見て、何を自社で作り、何を買うかを決めるときに向いています。もう解決済みの問題に人を割いていないか確かめたいとき、ロードマップが技術の変化とずれていないか見たいとき、込み入った仕組みを担当外の人に 1 枚で説明したいときにも使えます。
業界がどれだけもうかるかは地図からは分かりません。それはファイブフォース分析の仕事です。自社の活動をコストで分けるならポーターのバリューチェーンのほうが合います。要素が 1 つしかない判断に、地図を描くほどの手間はかけなくて構いません。どの方法がよいか迷うときは、戦略フレームワークの選び方から始めてください。
中心になる考え方
起点。地図は、利用者とそのニーズから始めます。言葉は利用者のものを使います。「売上を伸ばす」は会社の目標で、利用者のニーズではありません。サイモン・ワードリー自身の紹介でも、最初の手順はユーザーのニーズです。下に並ぶものは、すべてこのニーズを満たすためにあります。
バリューチェーンと見えやすさ。ニーズの下に、それを満たす要素を並べ、さらにその要素が頼っている要素を、土台になるインフラまで書きます。利用者が直接目にするものほど上に、まったく目にしないものほど下に置きます。
進化。横軸は、各要素の市場がどこまで成熟しているかを表し、4 つの段階を左から右へ進みます。
| 段階 | どんな状態か | 合うやり方 |
|---|---|---|
| 誕生(Genesis) | 新しく、珍しく、先が読めず、すぐ変わる | 探って試す |
| 特注(Custom-built) | 分かっている人が少なく、1 件ごとに作る | 自社で作るか、作ってもらう |
| 製品(+レンタル) | 競合する製品がいくつもあり、形が定まってきた | 買うか借りる |
| コモディティ(+ユーティリティ) | 標準化され、どこでも手に入り、従量や大量で買う | 電気のように使う |
動きと慣性。競争は、要素を時間とともに右へ押します。慣性は、その動きへの抵抗です。契約、社員の技能、過去の投資、そして昔のやり方で成功した会社の自信が、慣性になります。
気候、ドクトリン、打ち手。ワードリーの方法には、地図の上にさらに 3 つの層があります。気候のパターンは、自社が何をしても起きる変化です。「すべては需要と供給の競争で進化する」「成功は慣性を生む」がその例です。ドクトリンは、ほぼどこでも当てはまるよい習慣で、「ユーザーのニーズに集中する」「場に合った方法を使う」などがあります。打ち手(ゲームプレイ)は、自社の位置に応じて選ぶ意図的な手で、技術を公開して広める、提携する、素早く追いかける、といったものです。日本語は私たちの訳です。最初の地図なら、起点、バリューチェーン、進化、動きの 4 つで足ります。
小さな例
説明のための架空の例です。高校生向けにオンラインで数学を教える小さな会社があります。保護者のニーズは「子どもが学年末の試験に通ること」。エンジニアは 4 人で、来年どこに力を使うかを決めたいところです。
| 要素 | 見えやすさ | 段階 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 毎週の学習レポート | 高い | 特注 | 出している競合は少なく、形式を毎月変えている |
| 講師の選考 | 高い | 特注 | 自社の面接と試験。保護者がレビューで触れている |
| AI の練習用チューター | 高い | 誕生 | 一部の競合が試している |
| ホワイトボード | 中くらい | 製品 | 製品がいくつもあるのに、自社で作って運用している |
| 予約 | 中くらい | 製品 | 市販の製品を使っている |
| ビデオ通話、決済、サーバー | 低い | コモディティ | 分単位や取引ごとに払っている |
地図を見ると、ずれが 1 つ見つかります。ホワイトボードは製品の段階にあるのに、4 人のうち 2 人が自社製のものを保守しています。保護者に効いている選考と学習レポートは特注の段階で、まだ形が動いています。AI の練習用チューターは誕生の段階ですが、育てば学習レポートと同じニーズに応えるものになります。
打ち手はこう決まります。ホワイトボードは、講師 6 人で 30 日試してから市販の製品に替える。空いた 2 人で学習レポートの形を 1 つに決める。AI の練習用チューターは小さく安く試し、競合の動きを見る。講師の選考は社内に残し、手順を書き残す。
よくある失敗
- 組織図や業務フローを描いてしまう。地図に置くのは要素で、チームや作業の箱ではありません。
- 大事さで置く。欠かせない要素でも、市場ではコモディティのことがあります。市場の成熟度で、根拠をつけて置きます。
- 全部を同じやり方で進める。誕生の段階には試行錯誤、コモディティには決まった手順。同じ会社の中で両方が正しいことはよくあります。
- 一度描いて終わりにする。値打ちは、どこに置くかをめぐる議論にあります。チームで描き直します。
- 自社の慣性を見ない。自分たちで作って誇りにしているものほど、やめどきを見落とします。
ワードリーマップの描き方
- 起点を決める。利用者と、そのニーズを利用者の言葉で書き、紙のいちばん上に置きます。
- バリューチェーンを書き出す。ニーズを満たす要素と、それぞれが頼っている要素を土台まで書き、利用者から見えるものを上、見えないものを下に並べます。
- 要素を進化の軸に置く。この市場の今の姿で、誕生、特注、製品(+レンタル)、コモディティ(+ユーティリティ)のどれかを選び、置いた根拠を 1 行ずつ書きます。
- 動きと慣性を書き込む。どの要素がどれくらいの速さで右へ動いているか、契約や技能や過去の投資がどこでそれを止めているかを書きます。
- やり方のずれを探す。市場では製品やユーティリティとして買えるのに自社で作っている要素や、新しいのに決まりきったもののように扱っている要素を探します。
- 打ち手を決める。要素ごとに段階に合ったやり方を決め、どこで差をつけるか、何を外に任せるか、どの変化に備えるかの打ち手をいくつか選び、それぞれに担当と最初の一歩をつけます。
- チームで置き場所を確かめる。自信のない置き場所はすべて問いにして答える人を決め、答えが出たら地図を描き直します。
出典について
この方法と本『Wardley Maps』は、サイモン・ワードリーのものです。本は Medium で、クリエイティブ・コモンズ 表示・継承 4.0 国際ライセンス(CC BY-SA 4.0)のもとで公開されています。無料の版は Learn Wardley Mapping(英語)にまとまっています。このページの文章は、私たちが方法を自分の言葉でまとめた要約で、例も私たちが作りました。ワードリー本人が書いたり確認したり推薦したりしたものではありません。対応する AI スキルも CC BY-SA 4.0 で公開しています。ほかの考え方は戦略の本と考え方の一覧にあります。
よくある質問
ワードリーマップの縦軸と横軸は?
縦軸はバリューチェーンで、上が利用者から見える要素、下が見えない土台です。いちばん上に利用者のニーズを置きます。横軸は進化で、左から誕生(Genesis)、特注(Custom-built)、製品(+レンタル)、コモディティ(+ユーティリティ)の 4 段階です。
ワードリーマップは無料で使える?
使えます。サイモン・ワードリーは本『Wardley Maps』を、クリエイティブ・コモンズの表示・継承 4.0(CC BY-SA 4.0)で Medium に公開しています。
普通のバリューチェーン分析との違いは?
バリューチェーン分析は会社の活動を並べます。ワードリーマップはそれに、各要素の市場がどこまで成熟しているかを足します。そこから、何を自社で作り、何を買うか借りるか、次に何が変わりそうかが読めます。
無料の AI スキル
AI スキルとして使う
この手順を AI に任せるためのスキルが「ワードリーマップ」です。材料を渡すと、AI が同じ手順で進めて、決まった形にまとめます。
Claude、ChatGPT、コーディングエージェントで使えます。ポッドに入れると、チームの全員が同じ版を使います。
出典
- Learn Wardley Mapping:The Book(英語) — サイモン・ワードリーの『Wardley Maps』、Medium の原文、CC BY-SA 4.0 のライセンス (閲覧 2026-11-04)
- Simon Wardley「An introduction to Wardley (Value Chain) Mapping」2015 年(英語) — ユーザーのニーズから始める、見えやすさで並べるバリューチェーン、進化の軸 (閲覧 2026-11-04)
- Learn Wardley Mapping:Landscape(英語) — 進化の 4 つの段階 (閲覧 2026-11-04)
- Learn Wardley Mapping:Climate(英語) — 気候のパターン (閲覧 2026-11-04)
- Learn Wardley Mapping:Doctrine(英語) — ドクトリン (閲覧 2026-11-04)
- Learn Wardley Mapping:Leadership(英語) — 打ち手の分類 (閲覧 2026-11-04)